前回、前々回に引き続き、今回もクロセ家をシミュレーションしていただいた結果をもとに、いろいろと考察してみたいと思います。
今回のシミュレーションもやまのすみか株式会社代表である田上さん(@yamanosumika)に実施いただきました。
では早速、今回のシミュレーションの内容と結果から見ていきましょう。
室温・動的熱付加計算の結果
以下が「室温・動的熱付加計算」の結果です。
今回は生活における排熱や、冷暖房、外気温などをもとに室温の変化をシミュレーションしていただきました。
そして、今回は以下の条件でも併せてシミュレーションしていただいています。
1つはネオマフォーム50mmを付加断熱した結果。
そしてもう1つは屋根断熱を200mmから300mmにしたもの。
これ以外にもいろいろなデータがありますので、それを自分なりに解釈していこうと思います。
熱負荷の条件
間取り
今回は以下の間取りでシミュレーションしていただいております。
暖房計画
LDKを7時~21時まで20℃に暖房し続けるようなスケジュールです。
また、子供部屋は6時と20時~21時、主寝室は6時と22時~23時にも暖房しています。
寝る前と寝起きに温めているイメージですね。
冷房計画
LDKを7時~21時まで27℃に冷房し続けるようなスケジュールです。
また、個室は寝ている間28℃に冷房しています。
生活条件
こちらでは家族の構成や生活スケジュールにも条件を付けています。
人数、照明、家電によって生活による排熱量を設定しています。
ここでは換気システムが熱交換型で計算されています。
窓の付属物
こちらでは各窓につけているカーテンやシャッターなどの条件を付けています。
今回は全て窓だけの条件になっています。
気象データ
京都の気象データですが、夏は35℃以上、冬は0℃付近と温度差が激しい気象です。
特に夏場は盆地ということもあり、湿気も伴って外を歩くのがしんどいです。(´∀`;)
今回のシミュレーションは、これらの数字を使って行われています。
年間室温グラフ
以下は1年間の室温と外気温の温度を示したものです。
グラフの背景がオレンジ色の箇所は暖房を、水色の箇所は冷房をしている時期です。
また、グラフのオレンジ色の波線は室温、水色の波線は外気温を示しています。
外気温に比べて、室温は温度の幅や変化が小さいことがわかりますね。
ちなみにシミュレーション上は冷暖房の時間が決まっているので、室温が冬は15℃、夏は30℃近い日もありますが、実際は必要に応じて24時間冷暖房をするのでもっと室温の変化は小さいです。
さて、同じようなグラフをネオマフォーム50mm付加断熱した場合と、屋根断熱を200mm⇒300mmに増やした時のデータも取っていただいたので比較してみましょう。
暖房期
まずは暖房期の室温を比較してみましょう。
各グラフを横に並べ、温度差が見やすいように黒の横線で補助線を引きました。
暖房期、つまり冬ということで注目したいのは室温の最低温度です。
クロセの家はシミュレーションにおいて室温が15℃を下回っていますが、ネオマフォームを追加することで、15℃を切ることがありません。
室温の幅も全体的に小さくなっています。
また、屋根断熱を300mmに増やしたほうも、ネオマフォームを付加したほどではありませんが、室温の最低温度がクロセの家よりわずかに底上げされています。
本当にわずかのため、わかりにくいかもしれません。
多くの実務者は、屋根断熱を増やすことが快適性に大きく影響すると述べていますが、シミュレーション上ではそこまで目に見えた変化はありませんでした。
冷房期
次に冷房期の比較です。
冷房期、つまり真夏ということで今度は室温の最高温度を比較してみましょう。
ネオマフォームを追加した場合、やはりクロセの家と比較して最高温度が下がっているのがわかると思います。
屋根断熱を追加した場合も、かなり分かり辛いですが、わずかに最高温度が下がっています。
個人的には屋根からの日射による熱を抑えることができるのでもう少し効果が出ると思ったのですが、思ったほどではありませんでした。
1日の室温グラフ
先ほどまでは1年間の室温を比較してきましたが、次は1日の室温変化を比較してみましょう。
各部屋のシミュレーションをしていただきましたが、一番長居するLDKを見てみます。
暖房期
以下は1月12日という真冬の1日における室温変化をシミュレーションしたものです。
紫色の点線と実線が描かれていますが、実線はクロセの家、点線はネオマフォームを付加した場合の温度変化を示しています。
水色の実線は外気温を示しています。
そして背景がオレンジ色の箇所が暖房をしている時間帯です。
グラフを見ると暖房している時間帯はどちらも20℃で室温をキープしていますが、暖房を切っている時間帯は室温が少しずつ下がっています。
実線(クロセの家)と比較して点線(ネオマフォーム付加)のほうが温度の下がり方が緩やかなことがわかります。
付加断熱の効果が出ていることがわかりますね。
ちなみに屋根断熱300mmとの比較結果も確認しましたが、以下の通りほとんど違いがでませんでした。(実践と点線が重なっていて違いが分からない)
どうも屋根断熱を増やすだけでは室温に影響しにくいようです。
このあたりの考察は後述します。
冷房期
以下は8月7日という真夏の1日における室温変化をシミュレーションしたものです。
先ほどと同様に実線はクロセの家、点線はネオマフォームを付加した場合の温度変化を示しています。
暖房期に比べると、2つの条件による差がほとんど出ていません。
恐らくですが、無冷房時と冷房時の温度差が小さいことが原因かなと思います。
冬は室温を15℃から20℃に温めてました。
この冷房期(夏)は室温を29℃程度から27℃と2℃しか差がありません。
もう少し温度差があれば、温度遷移に差が出たかもしれません。
年間冷暖房費
以下はクロセの家とネオマフォーム付加した場合の冷暖房費を比較したグラフです。
色付きの棒グラフがクロセの家、灰色の棒グラフがネオマフォーム付加の家です。
冬はネオマフォームを付加した家のほうが暖房費が安いですが、夏はクロセの家のほうが冷房費が安くなっています。
この通りですとネオマフォーム付加で年間の冷暖房費は3000円程度しか安くなりません。
ネオマフォームを付加することで断熱性が上がり、熱が逃げにくくなったので冬場の暖房費が下がることはすぐに理解できると思います。
では冷房費がネオマフォームを付加したほうが上がるのはなぜでしょうか?
普通に考えればエアコンが効きやすくなるため安くなりそうですが。
考えられるのは窓から入る日射熱や、生活で発生する熱が逃げにくくなるせいでしょう。
生活で発生する熱を減らすのは難しいですが、窓から入る日射熱はすだれやよしずを使うことで大幅に緩和できるので、これらを活用することでもう少し冷房費は下がると思います。
以下のグラフで屋根断熱300mmとの比較結果も確認しましたが、室温同様に屋根断熱を増やすことによる大きな差はありません。
色付きの棒グラフがクロセの家、灰色の棒グラフが屋根断熱300mmの家です。
年間冷暖房費の差はわずかに200円程度。
室温だけでなく、冷暖房でも差がほとんど出ないようです。
年間冷暖房負荷
暖房期
以下は暖房期におけるエアコンの負荷を示したものです。
設計となっているのがクロセの家、比較となっているのがネオマフォーム付加の家です。
まずこちらのグラフを見てみましょう。
クロセの家と比較して、ネオマフォーム付加の家のほうが逃げる熱(損失)が小さいので、エアコン暖房の負荷が小さくなっていることがわかります。
以下の図は各部位の取得している熱と損失している熱の詳細です。
設計がクロセの家、比較がネオマフォーム付加の家です。
上の数値を見ると、ネオマフォームを付加した家は外壁から取得する日射熱が小さくなっていますが、それ以上に外壁から逃げる熱量が小さくなっています。
外壁から熱が逃げにくい分、屋根・窓・基礎・換気から逃げる熱量は微増していますが、トータルではネオマフォームを付加した場合のほうが逃げる熱量が小さくなっています。
そしてネオマフォーム付加のおかげでエアコンの暖房負荷が40%以上低減されています。
冷房期
次に冷房期のエアコンの負荷です。
まずこちらのグラフを見てみましょう。
ネオマフォームを付加することで、壁から入る熱量が小さくなっていますが、壁から逃げる熱の量も小さくなるため、トータルとしてはエアコン冷房の負荷が大きくなっています。
以下の図は各部位の取得している熱と損失している熱の詳細です。
暖房期と同様に設計がクロセの家、比較がネオマフォーム付加の家です。
ネオマフォームの付加によって外壁から入る日射熱の量が減っています。
しかしながら外壁から逃げる熱も大幅にカットしてしまっています。
これによって、気温が低い時間に熱が逃げにくくなるため、トータルではエアコン冷房の負荷が増えてしまっています。
先ほどの暖房期では、ネオマフォーム付加によって600kWhほど暖房負荷が減りました。
一方で冷房期では、ネオマフォームの付加によって200kWhほど冷房負荷が増えています。
総合的に見ればエアコンの負荷が減っているようです。
考察
今回もシミュレーションの結果をもとに色々考えてみました。
屋根断熱を増やした効果が小さい理由
今回はクロセの家と併せて、ネオマフォームの付加と屋根断熱を200mmから300mmに増やした条件でシミュレーションをしてもらいました。
しかし、屋根断熱を増やした効果は以下の通り室温も冷暖房費もほとんど見られませんでした。
一方で、温熱に関して詳しい実務者や著書においては、屋根断熱は窓の次に重視すべきであると語られていることが多いです。
熱は基本的に左右より上下に動きやすいことから、屋根断熱を重視すべきという意見も理論としてしっくりきます。
後は夏場の日射に対しても効果が大きいとも言われますね。
ではその効果がなぜでなかったのか?
恐らくですが、屋根と外壁の断熱材のバランスが大事なのかと思っています。
屋根断熱が大事というのはもちろんですが、極端に屋根断熱を厚くしても、結局外壁から多く熱が逃げていくのではないかと思います。
それがわかるのが以下のシミュレーション結果です。
このグラフの設計がクロセの家、比較が屋根断熱を200mm⇒300mmに増やした家です。
注目したいのが右下の熱貫流です。
屋根断熱を増やした分、比較(屋根断熱300mm)の屋根からの熱損失が120kWhほど減っています。
しかし、窓と外壁の熱損失が合わせて50kWh増えています。
つまり、結局バランスよく断熱を強化しないと、弱い場所からの熱損失が大きくなってしまうわけですね。
外壁にネオマフォームを付加した場合の効果が大きいのも、クロセの家の外壁の断熱がそれだけ屋根断熱と比較して弱いということだと思っています。
また、室温には表れないものの、屋根断熱の厚みを増すことで、夏における屋根からの輻射による熱を大幅にカットできるのかなと思っています。
結論として、空気の動きや日射の観点から屋根断熱は重要であるようですが、外壁とのバランスが何より大事ということだと思っています。
田上さんとの雑談
今回シミュレーションをしていただいた田上さんと結果を見ながら雑談していましたので、適当に列挙してみようと思います。
・屋根断熱の増加が思った以上にコスパが悪かった。
・ネオマフォーム付加はすごく効くので壁のメンテ時に付加してもいい。
・今回の結果から高断熱化を光熱費で評価するのは適切ではないかな。
・快適性を示すにはどういう指標がいいのか。
・より断熱性の良さを理解してもらうためには何がいいのか。
⇒物理的に体験させてみる?
・クロセ家は優秀でコスパも良い←お世辞だとしても超うれしい。
・冬の床とトイレはちょっと寒そう冷たそう←大正解
・厳密に計算すると、UA値はもう少しさがるかも?
ざっとこんな感じですね。
僕の中で一番の課題は「より断熱性の良さを理解してもらうためには何がいいのか」というところですね。
施主ブログをやっている以上、ここを理解してもらうのがクロセがしたいことではあります。
光熱費のコスパでいえば、住む年数で変わるもののおおよそHEAT20のG1 or G2くらいがちょうどいいといわれています。
しかし、それ以上の断熱性能が無駄というわけではありません。
特に快適性に効果があるわけですが、そこの良さを知ってもらうためにはどうしたらいいのか?
もし皆さんの中でアイデアがあればお聞きしたいです。
終わりに
今回でシミュレーションのお話も終了です。
久々に書くのが楽しい記事ということで、3回にわたってめちゃくちゃ長文の読みにくい記事になってしまいました。(´∀`;)
多分多くの人にとっては全くもってどうでもいい話であり、それよりもシンプルに高気密高断熱の良さを教えてくれっていう人がほとんどだと思います。
ただ、一部の好事家に刺さってくれたり、これがきっかけで高気密高断熱に興味をもってくれたらなあなんて思っています。
では。
コメント
クロセさんこんにちは!
先日のらくじゅさんの動画で6地域を防湿シートを施工なしで建てるには?みたいな動画で付加断熱を検討されていました。
アイ工務店で契約済みなので、施工が可能なのか金額と併せて聞いてみようと思いますが、クロセさんの時は可能でしたか?
私の建築条件で少しでも日射をとろうと思うと深基礎費用と防湿シートで100万程以上の追加なので、それなら髙断熱化の方がメリット大きいかな?と考えています
しーやんさん
こんにちは~!
アイ工務店でも付加断熱は可能だと思いますが(営業さんに聞いたら過去に一人ほどいたと聞きました、)、
標準仕様ではないので慣れていない可能性が高いですし、コストもやや割高かもしれません。
その営業所で施工経験があるか、大工さんに施工経験がある方をつけられるかなど聞いておいたほうがいいと思います。
また、付加断熱をした場合、合板の温度が下がりにくくなるため結露の発生を抑えるとも聞きますが、
湿気が逃げにくくなるため、かえって壁体内結露の可能性が高くなるとも聞きます。
参考までに、すごく気になりましたのでラクジュさんのどの動画で紹介されているかお聞きしてもよろしいでしょうか?
より高断熱にしたい場合、付加断熱以外では以下のような選択も取れます。
・窓をトリプルガラスに変更
・外壁の断熱材をアクアフォームNEOに変更(断熱性能が通常のアクアフォームの2倍程度あります)
この辺であれば、付加断熱より施工は確実かと思います。(コストはわかりませんが)
あとは付加断熱を検討する前に、屋根や床の断熱材を増やすのもいいと聞きます。
屋根であれば付加断熱なしでも300mmぐらい可能なはずです。
床断熱も標準だと45mmだったと思いますが90mm程度まで増やすと足元のひんやり感が変わるとききます。
こんな感じで、付加断熱以外にも高断熱化の選択肢はあると思いますので、
担当の営業さんと十分に相談してみてください。
また、無料で相談に応じてくれる方もいらっしゃいますし(私が存じている人だと「日々是精進設計」というブログを書いている神崎さん)、
有料であればココナラというサイトで相談に応じているプロの人もいると思います。
長々書きましたがまとめます。
アイ工務店でも付加断熱は可能だと思います。
ただし、標準ではないため施工経験の有無は必ず聞いてください。
付加断熱以外でも高断熱化の選択肢はあるので、そちらも併せて検討してみてください。
また、そもそもその高断熱化がコストに見合っているかという点も十分に考えてみてください。
クロセも高性能化は推奨していますが、家づくりはそれだけではないと思いますし、
他にほしいオプションがないか十分に家庭内でも話し合ってみてください。
クロセさん
明けましておめでとうございます
返信していただいてありがとうございます。
APW430の検討や吹き付けの変更や防湿シートも同時進行で検討中で(実は、それもクロセさんのブログを参考にしてます笑)どのオプションを採用しようかと金額調べている所なんです
床下エアコンだけは設計部からNGがでて不可能でした~残念です!
らくじゅさんの動画はラクジュ間取り研究所のNo.009の動画です
同じPHJの鳳建設の森さんとの動画の中で話をされています
ノボパンだと吹き付けをA種1Hに変えても、どうしても合板で結露判定になるので悩ましい所ですね
アイ工務店の難しい所は何が出来て何がNGかわからないので、自分で調べて聞かないと選択肢がでてこないんですよね
ちなみに妻のオプションはモチロン全て採用済みなのと、妻の実家が北海道で当然の様に樹脂サッシなんです
なので、最低でも暖かくなる家にしてという指示が出されています(笑)
しーやんさん
あけましておめでとうございます!
そこまで奥様としっかり話し合えているなら余計なお世話になりましたね笑
動画拝見しましたが面白かったです。
防湿シートなしでも、付加断熱をしたうえで極端に高湿度にしない住み方であれば結露の発生を防げるというものでした。
私も、今後きっかけがあれば付加断熱を考えているので非常に参考になりました。
まずは各種コストを知りたいですね。
コスト次第ですが、私も確かにA種1Hの吹付より付加断熱を選ぶかもしれません。
結露計算をしてみましたが、防湿シートなし+付加断熱のほうが内部結露に有利のようでした。
他の選択肢として、ノボパンではなくモイスを面材にするということを考えられますが、
それも標準外になるので高コストになりそうですね。
構造に関わる部分なので変更は怖いですよね~
正月あけたら営業さんに聞いてみたいと思います。
金額わかったらお伝えしますね